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─ 昔から、渋谷にはよく来ていたそうですね。
石田 実家が埼玉のほうで、副都心線に乗って一本で来ることができたので、高校の頃は映画を観たり、買い物をしたりとちょくちょく遊びに来ていました。で、渋谷にある大学に進学したこともあって、その4年間は昼も夜も渋谷にいましたね。昼は大学、夜は趣味が同じ友達と喫茶店やカフェでおしゃべりしたりして。私は実家暮らしで、友達も東京近郊に暮らしている人が多かったので、みんなで集まるとなると渋谷が一番便利だったんです。雑居ビルの2階にあった喫茶店〈モボ・モガ〉や、クリームソーダの美味しい宇田川町のカフェ〈ON THE CORNER〉にはよく行きましたね。夕方に集まりはじめて、ご飯を食べたり、お茶をしたり。好きな写真や音楽、最近観た映画のことなんかを延々としゃべっている時間が本当に楽しかった。
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みんなで集まれる場所をいつも探していたので、渋谷の複雑な地下道にもすごく詳しくなりました。どれだけ地上に出ることなく目的地に近い出口を選ぶのか、が得意(笑)。とくに雨の日や夏の暑い日は外を歩きたくないじゃないですか。それこそ逃げるように地下道を駆使していろいろな場所に辿り着くように考えていましたね。渋谷はだから、昔からとても慣れ親しんだ街ではあります。
─19歳で写真家デビュー。渋谷は遊び場としてだけでなく、仕事をする上でも大事な場所になったとか。
石田 小さい頃から写真が好きで、はじめは写ルンですとかガラケーで、中学2年の誕生日のときには一眼レフを買ってもらって、いつも何気ない日常を撮っていました。その瞬間の光とか、自分の目に映る刹那的な風景とか。撮らないとなくなっちゃうと思いながら撮っていて。大学生のときに写真展をすることになって、そこから少しずつお仕事をするようになりました。
当時はまだ大学生だったので、学校に行って授業を受けて、仕事までに3〜4時間空いちゃうこともよくあって。実家は遠いから一度戻るわけにもいかない。そのまま大学にいることもできたんですけど、なんだか落ち着かなかったんです。学校にはあまり友達もいなかったし(笑)。知っている人がいる中に1人でいるのと、知らない人ばかりの中の1人って居心地が全然違うじゃないですか。この頃から渋谷の街に〝喧噪からの逃げ場〟のような場所を探しはじめました。

その当時、よく行っていたのが〈青山壹番館〉。いわゆる純喫茶です。レトロな雰囲気が心地良くて、お客さんもサラリーマンとか、仕事をしている人ばかり。若いお客さんはあまりいなかったような。静かすぎず、適度にザワザワした感じがちょうど良くて気楽に過ごすことができました。サイフォンで1杯ずつ淹れてくれる深煎り珈琲を飲みながら、本を読んでゆっくり過ごすことはもちろん、写真の整理をしたり、メールをしたり。仕事に向かうために、心の準備を整えるという意味でも大事な場所だったような気がします。
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
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珈琲専門店 青山壹番館
住所:東京都渋谷区渋谷1-4-27 東銀ビル1F
電話番号:03-3406-3387
営業時間:10:00〜18:00 17:45LO
定休日:日曜、祝日
─ 落ち着いて過ごせる店やお気に入りの場所は、いつもどうやって探しているんですか?
石田 インバウンドの影響もあって、渋谷の街は驚くほど混んでいますよね。そんな中で落ち着いて過ごせる場所を探すのは本当に難しいんですけど、渋谷に詳しい友達や情報通の雑誌編集者に教えてもらったり、グーグルマップの店情報を駆使したりして、新しいお店を常に探しています。以前は、作業ができるような、空いた時間を潰すためのお店を中心に探していましたけど、今はより自分が好きだと思える場所というか、一人でも楽しめて、友達ともゆっくり会えるようなお店を探しています。
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ここ数年のお気に入りは〈FLUMINA〉。友達に教えてもらったカフェです。大通りから1本裏に入った道にあるおかげか、渋谷の喧噪が嘘みたいに静か。3階まで階段を上って店内に入ると、時間の流れが少しだけ変わるような、そんな雰囲気がとても良くて。インテリアや使っている食器も素敵ですし、店主の冨岡さんの丁寧な仕事ぶりや、ゆったりとした空気感が何とも心地良くて、ついつい長居をしてしまいます。
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それになによりケーキがとても美味しい。私にとって、これは重要なポイント。小さな個人店でも大手チェーン店でもケーキが美味しいところを選びがちです(笑)。昔から食べることがすごく好きで、食べるならやっぱり美味しいほうがいいじゃないですか。FLUMINAのケーキはいつ来ても美味しいんです。カボチャのタルトやジンジャーキャロットケーキといった定番から、季節限定の一品もあったりして。今日は焼き林檎とクリームチーズのバターケーキか……うわ、悩む……どうしよう……。でも、やっぱりカボチャのタルトにしようかな。
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FLUMINA
住所:東京都渋谷区渋谷2-8-10 3階
営業時間:12:00〜16:30LO
ランチ平日16:00LO、土曜14:00LO
定休日:日曜、水曜(水曜は喫茶水曜日として別メニュー営業)
─ 〝花のある暮らしっていいな〟と語る石田さん。渋谷にはわざわざ足を運ぶほど好きなお花屋さんがあるとうかがいました。
石田 実家には庭があったんです。母もお花が好きで玄関やリビングによく飾っていました。そのときは何とも思わなかったんですけど、一人暮らしを始めて気づいたんですよね。〝ああ、花のある暮らしっていいな〟って。緑の美しさや自然の豊かさを改めて感じるようになって。それから季節のお花を買って飾るようになりました。
よくお邪魔させていただくのが〈trèfle〉。渋谷駅からだと徒歩15分くらいかかるかな。ちょっと分かりにくい場所にあるんですけど、それでも、わざわざ行きたくなるお花屋さんです。渋谷の街中をすり抜けていくと、だんだん人が少なくなって靜かになっていく。このお店も喧噪とはかけ離れた、そんな場所にあります。
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ゴージャスな花というより、柔らかな印象の花が多いですね。白やピンクの可憐な小花とか、野花のような可愛らしいお花とか。おうちになじみやすい雰囲気の花が多くて、それがとても気に入っています。自宅にある花瓶に合わせて、そのときどきでいいなと思う季節の花を選んで買う。本当は海外みたいに、1種類の花をぶわっとまとめて活けるのが好きなんですけど、今の日本でそんなことをしたら一体いくらかかるのか……(笑)。
もちろん自宅用だけでなく、プレゼントにもよく活用しています。贈りたい相手のイメージや目的、こちらの希望をオーナーに伝えるんですけど、そういうことを踏まえたうえで、とても素敵な花束に仕上げてくれます。友人や仕事の関係者にtrèfleの花束を贈ると、みんなめちゃめちゃ喜んでくれました。やっぱり素敵なお店だなと思います。
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─ 最後に。渋谷の街は今、石田さんの目にどのように映っていますか?
石田 渋谷は絶え間なく変わり続けています。数週間来ない間に、よく使っていた階段や歩道橋がなくなっていたり、お店が移転していたり。新しいビルもどんどんできている。来るたびに違う表情を見せてくれるこんな街、ほかにはあまりありません。私自身は、街が変わり続けることに何の抵抗もなくて、むしろ東京っぽくて面白いな、と思っています。昔、覚えた地下道の出口情報はもう役に立たないかもしれませんけど……(笑)。それでもまた渋谷に来たくなる。来てその変化を、これからもずっと面白がっていきたいと思います。
photo:Keizo Iwamoto , Hikari Koki text:Akane Katsuyama
石田真澄(いしだ・ますみ)
フォトグラファー
1998年生まれ。2017年自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年に初の作品集『light years –光年-』(TISSUE PAPERS)を刊行し、光あふれるノスタルジックな世界感に注目が集まる。その翌年、カロリーメイトのCM「部活メイト」の写真家として起用され、活躍の場を広げることに。現在は「POPEYE」「GINZA」「VOGUE JAPAN」などの雑誌からソフトバンクやPARCO、agnes b.の広告、著名人の写真集に至るまで幅広く手がけている。
※2025年1月現在の情報です。内容など変更になる場合がございます。