第1回:コムアイ(アーティスト)
第1回:コムアイ(アーティスト)
なかなか離れられない街「渋谷」には、オアシスのような個性豊かなお店が生き残っている。
ミュージシャン、俳優として活躍するコムアイさん。「渋谷にはライブをしたり撮影したりした思い出がたくさんあります」と話すように、学生時代に音楽活動を始めた頃からよく通う街。渋谷ヒカリエを始めとした商業施設だけでなく、個人店も点在する渋谷にはコムアイさんにとってオアシスのような存在のお店があると言います。離れたくても離れられない街、渋谷について話を聞きました。
――初めて渋谷に行ったのはいつ頃ですか?
コムアイ たしか小学生の時。すごく人に酔ったのを覚えています(笑)。私は川崎市出身なんですが、地元から一番近い都会が渋谷だったので、中高生の頃は田園都市線で電車に乗ってよく通っていました。デートにも行ったり、友達とカフェに行ったり、学校帰りに一人で映画を観たり…。その頃は早く大人になって面白いことがしたいと思いながら渋谷に行っていました。
――学生時代以降、渋谷の印象は変わりましたか?
コムアイ 音楽活動をするようになって、所属していた事務所があったということもあり、何かと渋谷にはよく通いました。Oグループ(O-WEST、O-EASTなどの系列店)やWWWなどのライブハウスにもよく立たせていただきましたし。仕事で通うとなると、学生時代のような未知の世界が詰まっている街! という印象から打って変わって、正直、行きたいから行く街とは言い切れなくなりました。でも、なぜか離れられない。渋谷の駅前からWWWまで練り歩きながらライブしたり、鹿の解体をしたり、初めてフェスに出るためのオーディションライブがあったり、MVを撮ったり…。そのときは必死なだけだったけど、振り返ると、“あれ、すごく面白かったね”と言われるような仕事は、渋谷でしたものが多い。駅も街もずっと工事をしている印象だけど、私自身も姿を変えて渋谷のいろんな場所に出没しつづけているような。20代の舞台のような場所だったかもしれません。
――そんな渋谷という街の魅力は、どんなところにあると思いますか?
コムアイ 渋谷って、必要な機能がいっぱい集まっている街。例えば、渋谷ヒカリエの中の「メルヴィータ」には買い物じゃない目的でも行きます。サステナブルな活動を積極的に行っているブランドで、毎月21日~30日は自社のもの以外の化粧品容器も回収しているので、まとめて持って行ったりします。駅も近いので、ちょっと寄って…という便利な使い方ができるのも大きい施設のいいところ。そんな商業施設もあれば、店主の人柄や趣味が滲み出ている小さな個人店も残っていて、そういうお店からカルチャーが生まれているんだと思います。大都会だけど小さいお店が生き残っているのは素敵ですよね。
――渋谷ではどんなお店に行かれますか?
コムアイ 渋谷に行ったら必ず行くオアシスのようなお店が4軒あります。
まずは「BOY」という古着屋。
初めて行ったのは19歳頃かな? 駆け出しの頃は、衣装をよく買いに行っていました。行くと誰かしらミュージシャンが店内のソファに座っていて、そこで会話が生まれて新しい交流ができるのが楽しくて、まるで“友達ん家”をずっとやっているようなお店です。
店主のトミー(奥冨直人さん)はDJやスペースシャワーTVのパーソナリティをしていて、服では収まり切らない音楽や文化を愛する人。服のセレクトも良くて、価格帯も買いやすい。トミーが最近どんなことを考えているのかも聞きたくて、通ってしまいますね。いろんなことをやっていて忙しいからポップアップストアやオンラインショップになってもおかしくないのに、ずっと渋谷にお店がある。約束しなくても、いつでもそこにいてくれる、というのがすごく嬉しい。
――ファッション系だと他にはどんなお店に行っていますか?
コムアイ あとは、フレアパンツやベルボトムの専門店の「DEE★DEE」。
私は上半身は比較的薄目で、お尻や太ももにボリュームがある洋梨体形なのですが、下半身がぴったりしてるフレアパンツを履くのが好きで。スキニーは似合わないんです。あと、フレアパンツは履いていて楽しいしエレガントな感じがする。いろんなブランドのを履くのですが、まさか慣れ親しんだエリアにこんなお店があったとは最近まで知らなくて。常にブーツカットを履いている40代の仏師の知り合いにこの店の存在を教えてもらって衝撃を受けました。
まさに、ベルボトム好きのオアシス! 地方からも長年のお客さんがいらっしゃるそうで、ここがなくては困る人たちがたくさんいると思います(笑)。
店主の方も個性的で、ご自分で作られたベルボトムを穿いてます。それがスレンダーな体形にとてもお似合いです!
――あとの2店舗はどんなお店ですか?
コムアイ 飲食店になるんですが、1つは「なぎ食堂」。
もう2〜3年行けてないんですが、海外から来たヴィーガンの友達をよく連れて行ってましたね。最近はだいぶ増えてきましたが、日本でヴィーガン対応できるお店を探すのは割と大変なのですが、このお店は安心。
私自身はヴィーガンではないものの、ソイミートと玄米が大好きなので、こういうごはんがゆっくり食べられるお店は貴重。定番メニューのソイミートの唐揚げがお気に入りです。気取っていなくて、お味噌汁がついてきたりするところも、日本の定食らしいスタイルで外国人の友達も喜んでくれます。
なぎ食堂
住所:東京都渋谷区鶯谷町15-10
電話番号: 03-3461-3280
営業時間:月曜〜土曜 12:00〜16:00(L.O. 15:00)18:00〜23:00(L.O. 22:00)、
日曜 12:00〜16:00(L.O. 15:00)
もう1店舗は音楽関係の知り合いに連れて行ってもらった「長崎飯店 渋谷店」。数年では作れないエイジングを感じる店というか…。停滞せず人が出入りして、ちゃんと清潔にされていて、でも年月が積み重なった感じもある。また、みんなパっと行ってご飯を食べてサっと帰っていく、みたいな、街の“食堂”として機能しているところも素敵だなあと思います。
活気があって、それに人が引き寄せられている感じ。お腹がペコペコの時、ここで1人で皿うどんを食べるととにかく落ち着きます。
長崎飯店 渋谷店
住所:東京都渋谷区道玄坂2-10-12
電話番号:03-3464-0528
営業時間:11:00~14:30(L.O.10分前)、15:00~21:00(L.O.10分前)
――店主の方が素敵なお店から活気あるお店まで幅広いですね。
コムアイ そうですね。実は今、インドにいるのですが(編集部注:取材は4月上旬)、話していたら渋谷に行きたくなりました!
私にとって今の渋谷は、用事があるから行く街ですが、その合間に行けるオアシスのようなお店を知っていることで、だいぶ自由な印象になる。今回ご紹介させてもらった個人店って、その店主の人柄がお店の隅々まで血液のように通っていて、通うたびに“自分の好きなように場所を作っていいんだ”って気持ちになれる。店主と話さなくても、受け取るものがあるから面白いです。変わりゆく渋谷で、個性豊かな個人店には、ぜひ生き延びてほしいです!
*2022.4月現在の情報です。内容など変更になる場合があります。
*各店舗の営業時間等詳細は、店舗に直接お問い合わせください。
*価格はすべて税込表記です。
photo : Mihoko Sakamoto, Maho Kurita text : Yuko Watari